一歩目を速くするトレーニング|加速力に必要な筋力と動作のポイント
「相手より先にボールへ追いつきたい」
「守備の一歩目が遅れる」
「スタート直後に身体が浮いてしまう」
サッカー、野球、バスケットボール、バレーボール、テニスなど、多くのスポーツでは、長い距離を速く走る能力だけでなく、止まった状態や構えた姿勢から素早く動き出す能力が必要です。
一歩目を速くするには、脚を素早く前へ出すだけでは足りません。地面へ力を加える筋力、その力を短時間で発揮する能力、重心移動、身体の角度、腕振りなどを組み合わせることが大切です。
今回は、指導歴10年・累計1万セッション以上を担当してきたトレーナーが、一歩目が遅くなる原因、加速力に必要な身体能力、動作のポイント、実践的なトレーニング方法をわかりやすく解説します。
「一歩目が速い」とは?

スポーツにおける一歩目の速さは、大きく次の2つに分けられます。
- 合図や相手の動きを認識し、動き始めるまでの速さ
- 動き始めてから身体を進行方向へ加速させる速さ
前者には見る・聞く・判断するといった反応能力が関係し、後者には筋力、パワー、姿勢、地面への力の伝え方などが関係します。
そのため、あらかじめ決めた方向へ走る練習だけでは、競技中の一歩目を十分に高められない場合があります。基本の加速動作を身につけたあとに、色や音、相手、ボールなどへ反応する練習を加えることが必要です。
この記事では、主に動き出しから5〜10m程度までの加速動作を中心に解説します。
一歩目が遅くなる主な原因
構えた姿勢で重心が後ろに残っている
かかと側へ体重が乗り、上半身が直立していると、進行方向へ重心を移してから走り出すことになります。
一歩目を出す前に余分な動きが加わるため、スタートが遅れやすくなります。
腰を低く落とせばよいわけではありません。股関節・膝・足首を軽く曲げ、前後左右へすぐ動ける姿勢をつくることが大切です。
脚を前へ出すことばかり意識している
加速では、脚を遠くへ伸ばすことより、支持している脚で地面を押し、身体を前方へ進めることが重要です。
足を身体より大きく前へ着くと、接地した瞬間にブレーキがかかりやすくなります。歩幅を無理に広げず、身体が進んだ結果として一歩目が出る感覚を身につけましょう。
地面を下方向にしか押せていない
スタート直後に身体が上へ跳ねる選手は、地面へ加えた力を前方への加速に使えていない可能性があります。
スプリント研究では、加速局面で発揮する力の総量だけでなく、その力を水平方向へ有効に伝える技術がパフォーマンスと関連していました(研究はこちら)。
地面を後ろへ押し、その反力によって身体が前へ進む感覚が必要です。
一歩目で上半身が起き上がっている
最初から上半身が直立すると、身体を前へ押し出しにくくなります。
加速の初期は身体全体を進行方向へ傾け、速度が上がるにつれて少しずつ起き上がることが基本です。腰だけを折って頭を下げるのではなく、足元から頭までの位置関係を保ちながら前傾します。
力を出すまでに時間がかかっている
大きな筋力があっても、動き出しに時間がかかれば、一歩目には十分に活かせません。
スポーツでは、限られた時間の中で地面へ力を加える必要があります。スクワットなどで基礎筋力を高めるだけでなく、ジャンプ、短距離ダッシュ、軽い負荷を使った加速練習なども必要です。
疲れた状態でスプリント練習をしている
スピード練習を長時間続けると、疲労によって反応、姿勢、地面を押す力が低下します。
一歩目を速くする練習では、本数を増やすことより、1本ごとの質を保つことが大切です。呼吸が整い、次も高い速度で走れる状態まで休みましょう。
加速力を高めるために必要な5つの身体能力
1.体重を支えて動かす下半身の筋力
一歩目では、自分の体重を片脚で支えながら、地面へ大きな力を加えます。
主に使われるのは、次のような筋群です。
- お尻周りの筋肉
- ハムストリングス
- 大腿四頭筋
- ふくらはぎの筋肉
- 股関節を安定させる筋肉
加速走を筋骨格モデルで分析した研究では、足関節底屈筋群が身体の支持と推進に、ハムストリングスや中殿筋などが前方への加速に役割を果たすことが示されています(研究はこちら)。
ただし、特定の筋肉だけを鍛えれば一歩目が速くなるわけではありません。股関節・膝・足首を連動させ、自分の体重に対して十分な力を発揮できることが重要です。
2.短時間で力を発揮する能力
筋力は「どれだけ大きな力を出せるか」、パワーや力の立ち上がりは「どれだけ素早く力を出せるか」に関係します。
一歩目では、ゆっくり力を出す時間がありません。ジャンプ、バウンド、短いダッシュなどを利用し、素早く地面へ力を加える能力を高めましょう。
3.片脚で身体を支える能力
走る動作は、左右の脚で交互に身体を支える片脚動作の連続です。
股関節や膝が大きく内側へ入る、骨盤が左右へ傾く、足首がつぶれると、地面へ加えた力が逃げやすくなります。
スプリットスクワット、ステップアップ、片脚ジャンプなどを段階的に取り入れ、片脚で支えて押す能力を高めます。
4.足首で地面へ力を伝える能力
ふくらはぎや足部は、股関節や膝で生み出した力を地面へ伝える役割を担います。
足首が不安定なまま接地すると、力を十分に伝えられません。カーフレイズや低い強度のポゴジャンプなどで、足首周りの筋力と反発を利用する能力を養います。
5.上半身と体幹を連動させる能力
腕振りは、脚の動きとリズムを合わせ、身体の回転をコントロールする役割があります。
体幹は完全に固めるのではなく、姿勢を保ちながら肩と股関節を動かせる状態が必要です。プランクだけでなく、デッドバグ、バード&ドッグ、キャリーなども役立ちます。
一歩目を速くする動作のポイント7つ

1.すぐに動ける構えをつくる
足を腰幅から肩幅程度に開き、股関節・膝・足首を軽く曲げます。
足裏全体で床を感じ、かかと側にもつま先側にも偏りすぎないようにしましょう。肩や腕の力を抜き、合図へ反応できる状態をつくります。
競技や進む方向によって、適した足幅や重心の高さは変わります。見た目の形を固定するのではなく、その姿勢から前後左右へ一歩を出せるか確認してください。
2.脚より先に重心を進行方向へ移す
一歩目を出そうとして足だけを動かすと、身体が後ろに残りやすくなります。
胸や骨盤を含む身体全体を進行方向へ移し、その重心移動に合わせて脚を運びましょう。
前方へのスタートでは、倒れそうになる身体を一歩目で支える「フォーリングスタート」が感覚づくりに役立ちます。
3.支持脚で地面を後ろへ押す
前へ進みたいときは、地面を後ろへ押します。
「前脚を遠くへ出す」より、「後ろ脚で地面を押して身体を前へ運ぶ」と考えると、加速の方向をつくりやすくなります。
ただし、接地時間を短くしようと急いで足を離すと、必要な力を加えられないことがあります。強く押すことと、素早く次の一歩へ切り替えることの両方が必要です。
4.身体全体の前傾を保つ
前傾は、腰を丸めたり、顔だけを下へ向けたりする姿勢ではありません。
足元から頭までの位置関係を大きく崩さず、身体全体を進行方向へ傾けます。最初の数歩で急に起き上がらず、速度の上昇に合わせて徐々に上体を起こしていきましょう。
5.足を身体の遠く前へ着かない
歩幅を広く見せようとして足を前へ伸ばすと、接地時に身体へブレーキがかかりやすくなります。
膝を高く上げることを目的にせず、接地した脚で地面を後方へ押せる位置へ足を運びましょう。
6.腕を前後へ力強く振る
肘を自然に曲げ、肩から前後へ腕を振ります。
腕が身体の前で左右へ交差すると、上半身の回旋が大きくなり、進行方向へ力を伝えにくくなることがあります。肩をすくめず、脚の切り替えに合わせてリズムよく動かしましょう。
7.一歩目だけで終わらず、3〜5歩目まで加速する
一歩目がよくても、すぐに身体が起きる、歩幅を急に広げる、接地のリズムが乱れると、十分な加速につながりません。
最初の一歩から3〜5歩目まで、地面を後ろへ押し続けます。歩幅と身体の高さは、速度に合わせて少しずつ変化させましょう。
最初に後ろへ足を引く「フォルスステップ」は悪い動き?
両足を平行にした構えから前へ走るとき、一度片足を後ろへ引いてからスタートすることがあります。これはフォルスステップと呼ばれます。
一見すると遠回りに見えますが、必ずしも修正すべき動きではありません。
競技経験のある男性を対象にした研究では、両足を平行にしたまま前へ踏み出す方法より、スプリットスタンスや後方への一歩を利用した方法のほうが2.5m・5mのタイムが速い結果でした(研究はこちら)。
後方へ足を置くことで、身体を前へ押し出すための支持基底面を素早くつくれる場合があります。
大切なのは「後ろへ動いたか」だけで判断することではなく、合図から身体が前方へ進み始めるまでの時間と、その後の加速を合わせて評価することです。
一歩目を速くするトレーニング10選
1.パワーポジション・スタート
足を腰幅から肩幅程度に開き、股関節・膝・足首を軽く曲げます。
姿勢を保ったまま前後左右へ一歩動き、再び同じ姿勢で止まりましょう。最初は速度より、どの方向へも余分な予備動作なく動けることを優先します。
- 各方向3〜5回
- 2セット
- 1回ごとに姿勢をつくり直す
2.ウォール・ドライブ・ホールド
壁へ両手をつき、身体を斜め一直線に保ちます。片脚を持ち上げ、支持脚で床を後ろへ押すように姿勢を保ちましょう。
腰が反る、骨盤が左右へ傾く、支持脚のかかとが大きく落ちる場合は、身体の角度を浅くします。
- 左右10〜15秒
- 各2セット
- 頭だけを下げない
- 支持脚から頭までを自然につなげる
3.ウォールスプリント・エクスチェンジ
ウォール・ドライブの姿勢から、左右の脚を素早く入れ替えます。
空中で脚を動かすことより、接地した瞬間に床を後ろへ押せる姿勢をつくることが大切です。
- 左右5〜8回
- 2〜3セット
- 1回ずつ止める方法から始める
4.フォーリングスタート
足を腰幅程度に開いて立ち、足首付近から身体全体を前へ傾けます。
倒れそうになったタイミングで一歩目を出し、5〜10m加速しましょう。腰だけを曲げたり、最初の一歩を遠くへ着いたりしないようにします。
- 5〜10mを3〜5本
- 1本ごとに60〜90秒休む
- 転倒しない範囲の前傾から始める
5.スプリットスタンス・スタート
片足を前、反対の足を後ろへ置きます。前脚と後ろ脚の両方で床を押し、5〜10m加速しましょう。
後ろ脚だけで跳び出さず、身体全体を前方へ運びます。左右の足を入れ替えて練習すると、競技中のさまざまな構えに対応しやすくなります。
- 左右各3〜4本
- 5〜10m
- 1本ごとに60〜90秒休む
6.リアクション・スタート
パートナーの声、手の方向、色、ボールの動きなどへ反応してスタートします。
最初は前方だけに進み、慣れたら左右や斜め方向を加えましょう。方向を予測できない設定にすると、認知・判断を含む一歩目を練習できます。
- 1方向につき3〜5本
- 移動距離3〜5m
- 疲れて反応が遅くなる前に終了する
7.レジステッド・スプリント
スレッド、チューブ、パートナーの抵抗などを使い、前傾姿勢で地面を押す感覚を練習します。
負荷が重すぎて歩くような動作になる場合は、目的が筋力寄りになります。加速技術を高めたい場合は、姿勢と走るリズムを保てる負荷を選びましょう。
思春期の男子サッカー選手を対象とした研究では、個別に設定した高負荷のレジステッド・スプリントを週2回・4週間行ったグループで、短距離のスプリント能力が改善しました(研究はこちら)。ただし、研究で使われた負荷設定を自己流でそのまま再現するのではなく、経験のある指導者のもとで段階的に行ってください。
- 10〜20mを3〜5本
- 1本ごとに90〜180秒休む
- 姿勢と接地が崩れない範囲で行う
8.スプリットスクワット
前後に足を開き、前脚を中心に身体を下げて立ち上がります。
前脚の足裏で床を捉え、股関節・膝・足首を連動させましょう。上半身が左右へ傾かず、膝が大きく内側へ入らない範囲で行います。
- 左右6〜10回
- 2〜4セット
- 自重で安定してから負荷を加える
動画:スプリットスクワット
9.ルーマニアンデッドリフトまたはヒップスラスト
股関節を伸ばす力を高めるためのトレーニングです。
ルーマニアンデッドリフトでは、股関節を後ろへ引き、ハムストリングスとお尻を使って立ち上がります。ヒップスラストでは、腰を反らすのではなく、足裏で床を押して股関節を伸ばしましょう。
- 6〜10回
- 2〜4セット
- フォームを保てる重量を選ぶ
動画:バーベル・ヒップスラスト
10.ブロードジャンプ
両脚で前方へ跳び、股関節・膝・足首を使って静かに着地します。
跳ぶ距離だけを競わず、腕振りと下半身を連動させ、前方へ力を出す感覚を練習しましょう。着地で膝が大きく内側へ入る場合は、距離を短くします。
- 3〜5回
- 2〜4セット
- 1回ごとに姿勢を整える
- 硬い地面や滑りやすい場所を避ける
初心者向けの基本メニュー
一歩目の練習は、ウォームアップを十分に行ったあと、疲労が少ない状態で実施します。
スピード練習日
- パワーポジション・スタート:各方向3回
- ウォール・ドライブ・ホールド:左右10秒×2セット
- ウォールスプリント・エクスチェンジ:左右5回×2セット
- フォーリングスタート:5m×4本
- スプリットスタンス・スタート:10m×左右3本
- リアクション・スタート:3〜5m×4本
筋力・パワー練習日
- ブロードジャンプ:3回×3セット
- スプリットスクワット:左右8回×3セット
- ルーマニアンデッドリフトまたはヒップスラスト:8回×3セット
- カーフレイズ:12〜15回×3セット
- デッドバグ:左右6〜10回×2セット
週2〜3回を目安にし、スピード練習と高強度の下半身トレーニングを毎日続けないようにします。
チームスポーツ選手を対象とした研究では、フリースプリント、レジステッド・スプリント、プライオメトリクスを週2回・6週間行った各グループで、0〜5mと0〜10mの速度が改善しました(研究はこちら)。
一つの種目だけに頼らず、走る練習、筋力トレーニング、ジャンプ系トレーニングを目的に合わせて組み合わせることが大切です。
一歩目を速くする練習でよくある間違い
- 毎回、疲れ切るまでダッシュする
- 休憩を短くして本数だけを増やす
- 歩幅を無理に広げる
- 膝を高く上げることだけを意識する
- つま先だけで走ろうとする
- 前傾するために腰を折る
- 一歩目だけで上半身を起こす
- 重い負荷を使えば使うほど速くなると考える
- 筋トレだけで走る練習を行わない
- 反応練習だけを行い、基本の加速動作を確認しない
速く動くためには高い出力が必要ですが、毎回限界まで疲労させる必要はありません。フォームや速度が落ち始めたら、本数が残っていても終了しましょう。
中学生・高校生が取り組むときの注意点
成長期の選手も、基本姿勢、短いダッシュ、自重の筋力トレーニング、低強度のジャンプから段階的に取り組めます。
ただし、年齢だけで負荷を決めるのではなく、トレーニング経験、動作の安定性、成長段階、競技練習の量を考慮する必要があります。
- 最初は5〜10mの短い距離から始める
- 着地や減速の基本も練習する
- 重量より正しい動作を優先する
- スプリント本数を急に増やさない
- かかと、膝、股関節、腰の痛みを我慢しない
- 競技練習や試合を含めて全体の負荷を調整する
チーム全員へ同じ本数・負荷を与えるだけでなく、走力や身体の状態に合わせて調整しましょう。
一歩目を速くするには何週間必要?
姿勢やスタート方法を変えた直後に、動きやすさを感じることはあります。
一方、筋力やパワーを高め、競技中の判断を含む動作として定着させるには継続的な練習が必要です。まずは4〜8週間を一つの区切りとして、次の項目を記録しましょう。
- 5m・10mのタイム
- 合図から動き始めるまでの映像
- 一歩目から5歩目までの姿勢
- 左右それぞれからスタートしたタイム
- 練習時の痛みや疲労
タイムだけでなく、身体が一度反対方向へ揺れていないか、接地でブレーキがかかっていないか、上半身が急に起きていないかも確認します。
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一歩目を速くするには、股関節・足首のモビリティ、片脚で身体を支える能力、体幹と手足の連動が必要です。
身体の柔軟性や基本動作を継続的に整えたい方には、オンラインサロン【MOB】がおすすめです。
【MOB】では「動きやすいカラダ、最高のコンディション」をテーマに、自宅で取り組めるモビリティや体幹トレーニングを実践できます。
痛みがある場合の注意点
次のような症状がある場合は、ダッシュやジャンプを中止し、整形外科などの医療機関へご相談ください。
- 急にハムストリングスやふくらはぎへ強い痛みが出た
- アキレス腱周辺に腫れや熱感がある
- 膝や足首へ体重をかけられない
- 走るたびに痛みが強くなる
- しびれや急な筋力低下がある
- 転倒や接触のあとから痛みが続いている
痛みがある選手にとって、今回紹介したトレーニングがすべて適しているとは限りません。
まとめ

一歩目を速くするには、脚を素早く前へ出すだけでなく、身体を進行方向へ移動させ、地面へ加えた力を加速へつなげることが必要です。
重要なポイントは次の7つです。
- どの方向へも動ける構えをつくる
- 脚より先に重心を進行方向へ移す
- 支持脚で地面を後ろへ押す
- 身体全体の前傾を保つ
- 足を身体の遠く前へ着かない
- 腕振りと脚の動きを連動させる
- 一歩目から3〜5歩目まで加速を続ける
トレーニングでは、5〜10mの短いスプリント、リアクション練習、片脚の筋力トレーニング、ジャンプ系種目を組み合わせましょう。
自分の競技やポジションに合った一歩目、加速動作、トレーニング内容を個別に確認してほしい方は、B-LEADのスポーツチーム・アスリート向けトレーニング指導、お問い合わせフォームまたは公式LINEからご相談ください。
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